サディスティック・ホリデー
過日、横浜の山手に行ってきた。目的は、「澁澤龍彦 回顧展」。港の見える丘公園の一等奥まったところにある、神奈川県近代文学館で開かれていた。場所もいいので、澁澤龍彦はまだ読んだことがないが、気になって時間を無理やり作り、行った。
澁澤といえば、日本におけるマルキ・ド・サドの研究者で、それゆえときに偏執狂的な作家として語られることもある。さらにはそのサドの「悪徳の栄え」の紹介により、サド裁判の中心にいた人でもある。サドといえば、私が小学生だったか、中学生だったか、家にあった父の蔵書の中の「閨房哲学」や「ソドム百二十日」などをめくった記憶がある。その文学的価値などまったく理解できないまま、それでもその衝撃的な内容に驚いた。もしその訳者が澁澤だtっとしれば、あるいは私も(一応)澁澤の手になるものを読んでいるのかもしれない。
さて元町・中華街駅からすぐのところにある港が見える丘公園の入口をくぐると、すぐに旧フランス領事館跡が見えてくる。今はもう廃屋と化した領事館は、後に回顧展で見たサドの城の写真(蔦のからむ廃屋)に重なった。剥がれおちたタイルの壁は、薄暗い木々と草に囲まれ、おどろおどろしくも空しい無常な空間と化している。しかしそこからやや進むと、まるでヴェルサイユのような庭園。横にはローズガーデンもあり、一気にエキゾチックな華やかさを演出する。
展望台からは文字通り、横浜港から本牧までが一望できる。天気が良ければ、もっときれいなのだろう。愛をささやくには、最適な場所かもしれない。そのせいか、本当にささやいていそうなカップルも多い。今となっては“ただの”観光地となってしまった山下公園より、こっちのほうが私は好きだ。観光や子供連れには、山下の方をお勧めする。子供が来るには、ここの庭園は愛が多すぎる。一通り、庭園で恋人たちの囁きを聞き流して、先に進むと大佛(おさらぎ)次郎記念館がある。大佛は「おさらぎ」と読むので、念のためルビを振っておいた。有名な作家ながら、間違える人も多い(ちなみに私も)。
そこから霧笛橋を渡るといよいよ文学館だ。回顧展の詳細は、いずれ気が向いたらこっちにでも書くことにする。まぁ、あまり興味がある方も少ないかもしれないが……(笑) 霧笛橋まで来ると人も少なく、ここは庭園で愛を囁いた恋人たちの淫靡な空間かもしれない。
すてきな公園だった。
おまけ。
宣伝になるが、公園の入り口にあった「山手迎賓館」。私の拙い小説「メランコリーを眠らせて」で舞台に使った場所だが、実際に間近で見てみると、やはり素敵な場所だった。写真は帰りゆえ、門がしまっていたが、行きがけには式を挙げている幸せなカップルがいた。公園の片隅の文学館で、私は懸命に日本のサディズムの歴史を見ていたわけだが、どうやら横浜の山手の晴れた日曜日には、愛があふれ返っている模様。
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